経営改善の専門家が解決します! ~会社のお困りごと相談室~
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~会社のお困りごと相談室~
(第21話)
経営改善の専門家が今まで受けてきた300社以上の経営相談を基に、多くの会社で起こり得る問題とその対応策について、具体的なエピソードを交えて解り易くお伝えします。
◆本日のご相談◆
営業利益では黒字を確保していますが、経常利益では3期連続で赤字が続いています。不足分を銀行に融資を依頼し、借りて返してを繰り返しているうちに、いつの間にか借入金が増えてしまいました。月々の返済額が多くなっており、3カ月ごとに銀行に折り返し融資をお願いしている現状です。ですので、借入金が減らず支払利息も大きく、せっかくの営業黒字も経常赤字になってしまいます。このまま経常赤字が続くと、いずれ銀行から借入が出来なくなるのではと不安も抱えています。
【ご相談の会社について】
■基本データ
(業種業態)婦人服小売業
(売上高)6億円
(収益状況)経常赤字(▲120万円)
(従業員人数)50名(パート30名)
(借入金総額)3億円
■会社の現状
婦人服の小売業。直営10店舗(自社所有4店舗、賃借6店舗)を運営。短期資金での借入金はなく、長期借入金で運転資金を賄っている。近年では、アパレル業界の不調を受けて、当社も売上と利益低迷に悩んでいる。営業利益では黒字確保しているものの、支払利息負担が重たい為、経常利益では3期連続赤字が続いた。
【ヒアリング内容】
・冬場のコートなどの仕入資金が8月から始まり、12月~1月に販売して資金を回収している。
・夏場は売上の中心がTシャツなど単価が低い商品であり、手元資金に余裕がない。
・長期(3~5年)でしか借入を行ったことがなく、短期借入をしたことがない。
・1,000万円など不足分をその時々に借入を行っており、銀行借入の口数は10口を超えている。
・月々の返済額が約1,000万円であり、利益と比べて返済額が多い。
・支払利息は年間約800万円であり、経常利益で赤字となっている。
・3期連続の経常赤字で手元現金が減少している。
【見えてきた課題】
ヒアリングにより、以下の問題が明らかになってきました。
(季節要因)
資金の必要時期は、8月から1月までの間で約6カ月であるにも関わらず、長期5年で借入を行っているため、毎月の返済が大きく膨らんでいた。
(短期長期の調達バランスが良くない)
衣類などの棚卸資産(流動資産)の資金が必要であるにも関わらず、長期借入金(固定負債)で借入金を賄っているため、長期短期のバランスが不安定である。
(月々の返済負担が重い)
不足分を都度借入金で賄っているため、借入口数が多くなっており、月々の資金繰りが不安定になっている。
(支払利息負担)
毎月の返済額が大きくなっているため、常に借入金に依存した形になっている。そのため、借入金の増加ともに支払利息も増加し、経常利益を圧迫している。
銀行担当者から3年や5年で提案してもらえるので、余分に借りていると、いつの間にか本数が多くなり、反復して借り続けなければならなくなったという状況をよく目にします。これは、借入金の長期と短期のバランスを意識せず、長期資金のみで借入を行っていることが原因に挙げられます。
まず、営業活動を行っていくうえで恒常的に必要と認められる資金「正常運転資金」という考え方があります。下記図をご参照ください。
1.正常運転資金とは
一般的に、「正常運転資金」とは、企業の正常な事業活動を行っていくうえで恒常的に必要と認められる運転資金の事です。所要額は次の算式で表されます。
正常運転資金=売上債権(売掛金+受取手形)+棚卸資産-仕入債務(買掛金+支払手形)
上記の図を例に算出すると、
正常運転資金(100,000千円)=売上債権(10,000千円)+棚卸資産(120,000千円)-仕入債務(20,000千円+10,000千円)
最低でも100,000千円は営業活動を行うために必要であることが分かります。
2.短期長期借入金のバランスについて
最近では手形貸付による融資は減少傾向であり、銀行は証書貸付による長期貸出をメインに行っています。企業側にとっては期日が到来したときに一括返済を行うリスクが無くなる一方で、毎月の約定返済が発生します。足りない分を借入で賄い続けると、借入本数が多くなるため、月々の約定返済が大きくなり返済ピッチがタイトになります。そして継続的に融資が行われない場合、運転資金は不安定になる恐れがあります。また、長期貸出の場合、期間が長いためトータルで支払う利息も多くかかります。
【課題への対応策】
前述の課題から、ご相談の会社には「季節変動に見合った資金調達の方法」が必要だと考えました。具体的に以下の対策をとりました。
(借換・組換による資金調達)
・現状を認識し、銀行に借入金の借換・組換を依頼。
・資金繰り表、試算表を提出することで、銀行担当者と資金の必要時期を共有した。
・8月から1月までの半年間を中心とした短期借入に資金調達を切り替えた。
・当座貸越枠1億円の設定によって、正常運転資金程度の必要資金枠を利用できるようになった。
・必要時期に借りて返すことができるようになったため、支払利息が800万円から500万円に減少し、経常黒字を確保できるようになった。
・長期借入金については、口数をまとめることで月々の返済額を減らすことができた。
【ご相談者のその後】
毎月資金繰りについて頭を悩ませていましたが、今は必要時期に当座貸越枠を利用することで、安定した経営を行うことができるようになりました。社長として営業に専念することができるようになったため、売上も増加しており、手元資金も少しずつ増えてきています。今後は、溜まった資金を利用して、新しい店舗を駅前に出店する予定です。
【専門家から一言】
経営者にとって資金繰りは最も頭を悩ませる要因の一つです。正常運転資金を意識して、長期と短期のバランスを良くするなど、企業ごとに合わせた資金調達が必要となります。資金繰りの不安が解消されると、経営に専念することができます。ぜひ皆様もご自身の会社を見つめ直し、財務体制を盤石なものにしましょう。