事業再生専門家が語る「成長する企業と衰退する企業の経営」
~事業再生の状態に陥らないために~
事業再生専門家が語る
「成長する企業と衰退する企業の経営」
(第12話)
《IT・情報システムの活用について》
300社以上の事業再生案件で成果を上げてきた専門家の視点から、成長する企業と衰退していく企業の経営について、具体的な事例も交えてお伝えしていきます。
今回は、IT・情報システムの活用についてお話いたします。
【1.ITとは】
ITは日進月歩であり、常に新しい製品・サービスを生み出し、私達を驚かせ、生活を豊かにしてくれます。最近は、単純な業務の自動化・合理化だけでなく、ビジネスモデルを変革する役割までも担っており、企業の経営課題解決に直結するものとなっています。しかし、中小企業においては、その重要性を認識しているものの、現実的にIT導入や活用が遅れているのが事実です。
【2.IT活用の実体】
「みなさまの会社では、ITをどのくらい活用されていますか?」この質問をされて答えに悩まれる方が多いと思います。以下の図表は、中小企業庁が発表した、「中小企業・小規模事業者の経営課題に関するアンケート調査」です。
これらを見ると、中小企業では約60%弱が、オフィスや電子メールなどのITを使っていることがわかります。次に、約40%が給与や経理など定型業務を遂行するためのシステムを導入しています。しかし、調達・販売・受発注管理・情報共有などの、「情報システム」は約20%以下に留まっていることがわかります(図表1)。その主な理由は、1位:ITを導入できる人材がいない、2位:導入効果がわからない、評価できない、などが挙げられています。(図表2)
(図表1)
(図表2)
実際、私が関わってきたお客様も、上記の様な問題を抱え、IT投資に対して消極的になっている状況を目の当たりにしてきました。そこで、IT・情報システム導入のポイントについてご紹介していきます。
【3.IT・情報システム導入のポイント】
≪導入の成否は経営者が握っている≫
これまで私が関与した中で、IT・情報システム導入に成功した企業には、ある共通点がありました。それは、経営者や役員層が、IT・情報システム導入に対して積極的に関わっていたということです。そこで、経営者は次にあげる5つのポイントに留意して、IT・情報システム導入を進めてください。
①経営者が導入目的・成功の定義を全社に明確に表明する
図表2のIT投資を行わない理由の2位に、導入効果がわからない、評価できない、とありました。これは、当初の導入目的や成功の定義を決めていないことが原因です。導入目的や成功の定義は企業で千差万別であり、経営戦略に沿ったものでなくてはいけません。よって、経営者が今後の具体的なビジョンをしっかりと考え、明確にする必要があります。そして、IT・情報システムを導入し問題点が解決した後の自社の姿(イメージ)や具体的な指標を従業員と共有しておくことが大切です。ここが明確になっていないまま、何となくIT・情報システムを導入してしまいますと、必ず失敗します。
②部門最適・部門間調整の壁にとらわれない
図表1を見ると、情報システムと比較して、オフィスや電子メールの導入率が高いことがわかります。これは、部門間調整が必要なシステムほど、導入率が低いとも解釈できるのです。変化が激しい市場環境において、組織の成長を期待し、全社的に業務プロセスの最適化を狙ったIT・情報システム導入が増えています。特に、業歴が長い企業に見られるのですが、今の仕事の流れを変えようとせず、システムを現行の業務に合わせようとする傾向が見られます。このような意見が、全部門から出てきた場合、収集がつかなくなり、システム導入は頓挫してしまいます。
③適切なベンダー選定・パッケージ選定を行う
図表2のIT投資を行わない理由の1位に、ITを導入できる人材がいない、とありました。ITを導入できる人材とは、開発経験があるなどの、ITに対する技術的な知識や専門用語を知っていることではありません。一番必要なことは、ベンダーコントロールができる人材です。それは、自社のITリテラシーや企業文化にマッチしたベンダーとシステムを見極めることです。IT・情報システムを検討する際は、必ずRFP(提案依頼書)を作成し、2~3社の業者を比較検討することをお勧めします。複数社を検討するなかで、費用相場、自社に本当に必要な機能、ベンダーのレベル感がわかるようになります。また、業者の対応力をしっかり見極めましょう。受注までは一生懸命対応してくれていたのに、注文獲得するや否や、対応が悪くなるようなベンダーでは困ります。二人三脚でサポートしてくれるベンダーを選定しましょう。
④機能要望と導入範囲を絞る
IT・情報システムの運用に失敗するお客様がよく、「機能を使いこなせていない」と言われます。最近の情報システムは、総花的に機能の数を増やしています。特に、前述①の導入目的・成功の定義が明確でない場合、要件定義の段階で機能の利用範囲を広げてしまうので、このような発言に繋がっているのです。言い換えると、システムに人間が使われている状態に陥っています。私が考える機能を使いこなしている状態とは、「本当に必要な機能を絞り込んで、とことん使い込む」、ということです。
⑤運用体制とルールを作り、全社的なプロジェクトとして対応する
IT・システム導入の基本的なプロセスは、ベンダー選定⇒要件定義⇒テスト運用⇒本稼働⇒モニタリングの順に続きます。システムが本稼働した後も、随時見直しを図り、全社一丸となって取り組んでいく必要があります。よって、社内でプロジェクトチームつくりましょう。トップは経営者です。配下には、各部門からリーダーを選任し、具体的な役割と責任を与えてください。例えば、会議体の頻度や内容、何かトラブルが発生した時の報告ルートなど、できるだけ具体的に決めましょう。
【IT・情報システム活用のポイントまとめ】
これまで述べてきたようにIT・情報システムは、企業の経営課題解決に不可欠なものとなっています。残念なことですが、IT・情報システムを導入すれば、魔法のように問題が解決する、と思われている方がいます。ITはあくまで「道具」です。そこに命を吹き込み、企業のなかで期待した効果が出るようにするまでには、そこに関わる人の想いや力が必要です。だからこそ、経営者を中心とし、会社一丸となって取り組んで行くべきなのです。
前田 節(まえだ とも)